コラボ事例

【呉市 福祉保健課】
先進的な骨粗しょう症重症化予防の取り組みが成果を出し続ける理由

「呉市骨粗しょう症重症化予防プロジェクト」の取り組みについて、以前のインタビューからどのように進化しているのか、再度インタビューをしました!

2025.11.28
強固な「官・民・学」連携と若手人材の育成が支える、
呉市の「健康寿命日本一」への挑戦

広島県呉市では、高齢化により発生する健康問題を解決すべく、平成29年(2017年)に「呉市骨粗鬆症重症化予防プロジェクト」を立ち上げました。医療費の適正化と市民のQOL(生活の質)向上、特に骨折予防を通じて介護予防を実現することを目的としています。

本記事では、事業開始から8年目を迎える現在、なぜ呉市がこの取り組みを継続的に成功させ、他の自治体が直面する課題を乗り越えられているのか。その成果と秘訣を、プロジェクトを推進する福祉保健課健康政策グループの要田様、河本様のお二人に、詳細に伺いました。

<ご参考>前回のインタビュー記事
2023年10月掲載「【呉市】骨粗しょう症重症化予防の取り組み」
https://www.brdg-square.com/articles/detail/26


継続的な取り組みがもたらした医療費・介護費への貢献
事業開始から昨年度までの定量的、定性的な成果についてお聞かせください。
呉市で実施している受診勧奨事業については、低い骨折発生率をキープし続けています。特に、治療中断者の割合が減少し、医師の先生方の中でも「骨粗鬆症治療を中断させない」という意識が広まっていることを実感しています。これは、行政と医療機関の連携が強くなっている一つの成果だと感じています。
定量的な成果としては、後期高齢者医療費の分析データからも傾向が見られます。骨折は、ADL(日常生活動作)やQOLの低下、さらには要介護状態の大きな要因となりますが、呉市では要支援ありの方の医療費のうち、令和3年度までは1位だった骨折による費用が、令和4年度の分析では2位に順位が下がってきています。(呉市様に提供いただいた資料によりますと、令和2年度と4年度の比較で要支援の骨折医療費が約63,000千円下がっています。)

        
               ⇩ 
※出典:呉市福祉保健課様ご提供資料より転載

これは、呉市が骨折対策に取り組んできた成果の一つと認識しており、骨折にかかる費用が抑えられていることは、これからも住み慣れた地域で暮らすための第一歩と考えています。骨折予防は、医療費の適正化だけでなく、市民のADL・QOLの維持向上に大きく貢献できる、意義のある取り組みだと感じています。

■成功の秘訣:医療者との強固な連携 
―呉市の事業成功の秘訣として、地域医療機関との連携の強さが挙げられます。この連携はどのように始まり、発展してきたのでしょうか。
呉市では以前から、ジェネリックの促進通知事業や、生活習慣病の重症化予防事業などで医師会の先生方と協議を重ね、何かあればご報告や相談をしていました。骨粗鬆症重症化予防事業においても、この医療者と行政が協力し合う関係性が連携の礎となっています。

骨粗鬆症重症化予防事業の取り組みが始まったきっかけは、医療者が骨粗鬆症の治療薬が持つ副作用に危機意識を持たれていたことでした。骨粗鬆症の治療には骨吸収抑制剤という薬を使用することがありますが、顎骨壊死(がっこつえし)の副作用があり、それが起こると歯科の治療ができないので、薬の服用を中断してしまうというケースが発生していました。市内の整形外科の先生と口腔外科の先生がたまたまお知り合いで、このようなケースに対して「お互いが注意しながら診療を継続しないといけない」という話になり、医師会、歯科医師会、薬剤師会が連携する「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死予防診療ネットワーク」が構築されました。
その後、この取り組みを地域全体で進めるため、呉市地域保健対策協議会の下部組織として「骨粗鬆症地域包括医療体制検討小委員会」が立ち上がりました。この最初の委員会に、当時の医師会長様から「行政も何か一緒にできないか」と声をかけていただいたのが、行政が正式に参画するスタートとなりました。先生方が問題意識を持たれているところに、行政も一緒に取り組むというという流れが自然にできたのも、今まで築いてきた協力体制があったからこそと思っています。

■官民学連携の進化:イベントを通じたネットワークの拡大
―事業開始から8年が経過し、地域連携はどのように発展していますか。
当初の医科・歯科・薬科・行政の枠組みを超え、連携が「官・民・学」へと拡大しているのが大きな変化です。
特に毎年開催している骨粗鬆症啓発イベント(世界骨粗鬆症デーin呉)では、その傾向が顕著です。

 ・広島県理学療法士会:昨年度のイベントに来られた広島県理学療法士会の会員さんから、
  「ぜひうちも一緒にやりたい」と申し出をいただき、今年度からブース出展が実現しました。

 ・市内高等教育機関:市内にある医療系の大学に対し、学生に活躍してほしいと要請したところ、
  看護学部の学生さんがブース出展をしてくれました。また、呉市が設置した「呉地域オープン
  カレッジネットワーク会議」というものがあり、近隣の大学や高等専門学校に情報を発信して
  いるのですが、そのオープンカレッジネットワークを通じて個人でボランティア参加を申し出て
  くれた学生さんもいました。おかげで今年のイベントには、若い世代やファミリー層がたくさん
  来場してくださいました。

 ・民間企業:職員が5名という限られたマンパワーの中、医薬品卸であるアステム様には、事業
  立ち上げ当初から医療機関への訪問調整やイベントの企画・運営、チラシ作成など、共同体の
  ような形で本当に細かく丁寧に支えていただいています。職員だけでは手が回らない部分を
  補っていただいていることが、この取り組みが継続的に成果を出せている大きな理由のひとつ
  だと感じています。

民間企業や様々な団体が協力してくださることが当たり前ではないという意識を持ち、連携を深めています。


2025年開催「世界骨粗鬆デー in呉」のチラシ

■若手職員の成長:柔軟な発想力を生かした頼れる人材に
―要田様と河本様には2年前にもインタビューにご対応いただき、当時河本様は新人職員でいらっしゃいました。この2年間で、河本様にどのような変化があったかお聞かせください。
河本様:入職した当初は、外部の方に電話をかけることすら怖かったのですが、直接お話し、意見を交換させていただく中で、お互いの考えが深く理解できるようになりました。一番嬉しい変化は、先生方から名前で呼んでいただけるようになったことです。担当者として、微力ながらも成長できていると感じています。

要田様:福祉保健課に配属された初めての新人ということで、保健師としてだけではなく、行政の職員として対外的な対応もしっかりできるようになってほしいという思いがありました。今ではイベント一本を安心して任せられるほどに成長してくれました。特に「若い人にどう来てもらえるか」という視点でアイデアを出し、企画力を発揮してくれるのは、私たちベテラン職員にはない強みです。「どこに出しても恥ずかしくない」人材に育ってくれたと嬉しく思います。

―初めての新人ということで苦労されたかと思いますが、仕事に対するモチベーションはどのように維持されていますか。
河本様:大変な時もありますが、その時は「なぜ保健師になりたかったのか」という原点に立ち返るようにしています。看護師など他の道もある中で保健師を選んだのは、病院に来る方というより、お家で暮らしている市民の方の公衆衛生を底上げしたいという思いがあったからです。骨粗鬆症イベントも、これから骨量を上げてほしい若い人のためには必要だと考えています。市民のためという思いと、自分の夢の実現という思いを両立させながら取り組んでいます。



■今後の展望:研究機関との共同研究とデータ利活用の推進
―今後の展開についてお聞かせください。
今後は、協力いただいている医師の先生方との共同研究をさらに深化させていきたいと考えています。呉市側でレセプトデータや骨折率といった集計データを提供できる範囲で提供し、先生方の研究活動に活用していただいています。その研究結果は、また呉市の保健事業(データヘルス計画に基づく)にフィードバックされ、より効果的な実動の部分に生かされることになります。
行政内部でデータ活用に対するハードルが高い自治体が多いと聞く中、呉市では、市民に還元するという目的のもと、学術研究としての提供について、総務系の部署とも協議を重ね、推進しています。
また、情報部門と連携し、オープンデータ・データプラットフォームの整備も進めています。集計したデータを匿名化し、市民だけでなく民間企業にも使ってもらえるような環境を整えることで、呉市全体としての健康づくりを加速させていきたいと考えています。

得られた知見は、「目先の効果」だけでなく、「5年、10年といった将来的な介護予防・健康寿命の延伸」という大きな成果に繋がるものです。これまで培った強固な「官・民・学」の連携を生かした事業展開を続け、健康寿命日本一のまちを目指して挑戦を続けたいと思います。


右から
呉市福祉保健部 福祉保健課 健康政策グループ 要田様
呉市福祉保健部 福祉保健課 健康政策グループ 河本様
(株)アステム 広島営業部 呉支店 支店長 高木氏
※記事中の所属名等は、インタビュー当時(2025年10月8日)の名称です。

※この記事のPDF版を「添付ファイル」からダウンロードできますので、印刷や回覧にご利用ください。

一覧へ

会員登録